遺伝子解析が導く新標的 活気づく育毛剤市場

ライオンのイノベートに続き、発現解析から生まれた新製品を3月に資生堂が発売。
大型と注目されているプロペシア発売の遅れを横目に見つつ、新ターゲット探索が活発化している。

 万有製薬が医家向け医薬品として承認申請中のフィナステリドは育毛剤としては初の内服薬。欧米など60カ国以上で売られ、外国での商品名「プロペシア(PROPECIA)」は、男性型脱毛*1に期待度大の育毛剤の通り名として日本でもかなり認知が進んでいる。1999年に大正製薬が初のダイレクトOTC(医家向けでの使用経験を経ずに承認された大衆薬)育毛剤である「リアップ」を発売して育毛剤市場が急拡大したが、その後は漸減。プロペシアがリアップ発売時と同等以上のインパクトをもたらすか注目されている。

 もっとも、プロペシアの承認申請は2003年3月。昨年中には発売と見込まれていたが、当局の審査が進まずにもたついている状況だ。その間を狙ってか、医薬部外品である従来の育毛剤の新製品が昨年から目立つ。新しい育毛剤が作用する標的分子(ターゲット)のアピールに各社余念がないが、そのターゲットを探索するカギとなっているのが遺伝子発現解析だ。

 ライオンの基礎研究を担う生物科学センターは、毛髪形成にかかわる物質であるエフリンをマウス新生児に皮下投与すると、毛根の数が増えることを昨年12月の日本分子生物学会で報告した。「毛根自体の数が増えるという報告は初めて」と同社生物科学研究センターの吉野輝彦主任研究員は語る。

 このエフリンとは、ライオンが徳島大皮膚科と共同で、遺伝子発現解析によって見いだした育毛ターゲット。発毛の司令塔である毛乳頭*2細胞の培養株を利用し、脱毛部由来と非脱毛部由来の株における遺伝子発現を比較。BMP(骨誘導たんぱく質)、エフリンという2つの発毛促進シグナルを絞り込んだ。

 この2つの物質の増加を指標として薬剤をスクリーニングし、03年10月に発売にこぎ着けたのが「イノベート」だ。遺伝子発現解析から得た「新育毛ターゲット」をアピールし、国内育毛剤市場で10%程度のシェア(ライオン推定)を獲得。存続が危ぶまれていたライオン育毛剤事業の救世主となった。

 ただし、開発の段階で発毛の効果は確認しているものの、エフリンやBMPが具体的にどう絡むかは未知数だ。そのため、2つの物質の発毛メカニズムを突き止めるための基礎研究は商品化後も継続しており、分子生物学会で発表した結果を導いた。

 毛が生えそろった後のマウスで毛根が増えたわけではないし、仮に毛根形成の作用があっても、どう制御するかなど、今回の研究結果を実用につなげるまでの距離は遠そうだ。しかし、発現解析から得たオリジナル物質のメカニズムを丹念に洗うことで、イノベートの威力を増強するような物質、ひいてはさらに画期的なターゲットの発見を、吉野主任研究員ら基礎研究のスタッフは狙っている。

資生堂も新ブランド投入
タッチの差で確保していた用途特許

 ライオンに1年半遅れ、資生堂も遺伝子発現解析で見いだした新標的から発展させた新育毛剤、「アデノゲン」を3月に発売する。資生堂には「不老林」という育毛剤ブランドがあるが、アデノゲンは一線を画して新ブランドとして展開。従来の商品リニューアルとは気合いの入れ方が違っている。

 資生堂が行った遺伝子発現解析も、ライオンと同じく徳島大学皮膚科との共同研究。しかし、こちらでターゲットとして絞り込まれたのはFGF(線維芽細胞増殖因子)-7という発毛シグナル。ライオンとは手法が若干異なり、資生堂の場合は同一人物について、毛が薄くなっている部分とまだ大丈夫な部分から毛乳頭細胞を取り、培養して発現を比べた。また、ライオンが対象とした遺伝子数は1000種強で、資生堂は2万種だった。

 そのFGF-7を増やす効果を指標としたスクリーニングで得られた候補が、DNAの構成物質であるアデノシンだ。血管拡張作用が知られるアデノシンについては、リアップの主成分であるミノキシジルの作用機序の途中に位置することが突き止められていた。そして、FGF-7の増加についても、他の化合物よりもけた違いに高い活性を示した。

 もっとも、アデノシンを育毛剤に使うという用途特許の確保については、タッチの差だったという。資生堂の出願が1999年10月。一方、リアップを擁する大正製薬も特許を出願していたが、資生堂が優先日で4カ月先行。今ほどのメカニズムの知見はなかったが、血管拡張作用を生かした発毛効果でひとまず権利を確保したことが奏功した。

 遺伝子発現解析から導き出した初の育毛剤という触れ込みはライオンに譲ったが、発現解析への着手が遅れていたわけではないという。ライオンの場合、イノベートの主成分であるサイトプリンは既に医薬部外品の成分として承認されていたものを他社から導入したが、アデノシンは部外品の承認申請を行う必要があった。この差が、両社の“ゲノム創薬”実用化のタイムラグとなったようだ。

 遅れを取り戻すため、資生堂の大々的なプロモーション攻勢が近く始まりそうだ。

培養を経た発現解析には限界?
退行期の抑制などターゲットは多様

 ライオン、資生堂の両社とも発現解析のデータをすべて公開しているわけではない。商品にこぎ着けたターゲット以外に、発現量が変動している遺伝子は当然押さえているだろうし、研究も進めているとみられる。ただ、毛乳頭細胞を培養した後の解析だから、培養の間に遺伝子の発現プロファイルが頭皮にある状態とは変わっている可能性もある。「発現解析で捕まえることができない重要なシグナルは、まだまだあるだろう」と大阪大学医学部皮膚科の板見智助教授は指摘する。

 DNAチップなど現状の遺伝子発現解析技術では、ある程度のサンプル量が必要となる。しかし、頭皮にある毛乳頭細胞だけで、十分量を確保することは難しい。毛が薄くなっている部分に残った貴重なうぶ毛を大量に抜くような非人道的な行為は、最小限にとどめなければならないからだ。

 板見助教授は培養毛乳頭細胞に男性ホルモンであるアンドロゲンの受容体を強制的に発現させ、角化細胞を共存させて、アンドロゲンが細胞増殖に及ぼす影響を調べることができる手法を確立。頭皮での状況をシミュレーション*3するという方法論で男性型脱毛の新ターゲットにアプローチしている。

 板見助教授はこの手法から、毛乳頭細胞がTGF(形質転換成長因子)-β1という物質を介して、増殖抑制の指令を出すことを突き止めた。ノックアウトマウスで検証すると、TGF-β1がヘアサイクルを退行期に誘導する因子であると分かった。現在、このTGF-β1を抑制する化合物の探索を三井化学と共同で進めている。

 新製品の登場がまだ当面続きそうな育毛剤だが、やはり最大の注目は、医家向けの育毛剤であるプロペシア*4が、日本でどこまで浸透するかだ。発売時期は、「承認待ちなので何とも言えないが、何とか今年後半には」(万有製薬広報部)という状況だ。

 ただ、医家向けゆえに、急速に浸透するかどうかは未知数。日本で男性型脱毛の臨床経験がある医療機関は一握りで、内服薬であるプロペシアを処方しようとする医師がどれだけいるかはみえないからだ。

 万有もマーケティング戦略はまだ手探りのようだが、育毛剤市場V字回復の起爆剤となれば、最新のバイオ技術を育毛剤研究に投入するインセンティブは上がる。新ターゲットは続々と出てくるだろう。(石垣恒一)

エフリンの投与で新生児マウスの毛根が増える

対照

エフリン投与

ライオンが遺伝子発現解析から育毛機能を見つけたエフリンをマウスに生後3日齢まで皮下投与した結果。生後12日齢では、対照(左)に比べて毛根の密度が増えた(右)

毛髪の構造とヘアサイクル

毛髪は成長期、退行期、休止期というヘアサイクルを繰り返す。いわゆる脱毛とは、退行期および休止期の毛髪の割合が高くなった状態。サイクルの司令塔が毛乳頭だ

アデノシンはリアップ(ミノキシジル)の下流に位置

資生堂の新製品「アデノゲン」(右写真)の主成分アデノシンは、リアップの主成分ミノキシジルの下流に位置する

プロペシア(フィナステリド)の作用機序

テストステロンからジヒドロテストステロンの変換をブロックし、脱毛を抑える

*1 男性型脱毛

以下の4つの特徴がある。-|μ咾粒+始が思春期以降-∪犬┷櫃慮綢燹∩案,部あるいは頭頂部が薄くなるなど特徴的なパターン-L喩韻瞭靆啣臭げ搬欧肪μ咯匹鯒Г瓩襪海箸,多い

*2 毛乳頭

毛髪の根本にある組織で、周囲の毛母細胞に酸素や栄養分を供給する。ヘアサイクルを変化させるシグナルを出すという発毛、脱毛の司令塔としての役割も果たす

*3 頭皮での状況をシミュレーション

ひげの培養毛乳頭細胞では、アンドロゲンを加えると角化細胞の増殖が加速し、男性型脱毛の部位の培養毛乳頭細胞では、その逆となる。つまり、同じ刺激を受けても部位によって逆の指令を行うことをin vitroで再現できたわけだ

*4 プロペシア

米Merck社が開発。一般名はフィナステリドで、外国での商品名は「PROPECIA」。5α還元酵素II型を選択的に阻害することで、テストステロンからジヒドロステロンの生成を抑え、男性型脱毛を防ぐ(下図参照)。ジヒドロステロンはテストステロンよりホルモン活性が10倍強い。プロペシアは当初、前立腺肥大症の治療薬(含有量5mg)として発売され、その後に男性型脱毛症治療薬(含有量1mg)として発売された(いずれも海外)。5α還元酵素にはI型とII型があるが、男性型脱毛を発症する部位やあごひげにはII型が多く分布するという。

男性ホルモンを阻害ということで、男性機能低下などの副作用が不安視されることが多い。万有製薬によれば、テストステロンの働きを抑えるわけではないので、男性機能への影響の心配はないという(下表参照)。実際、海外の結果でも、男性機能への影響について対照と有意差は出ていないようだ。

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